深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
体と心のハーモニー


エッセイに関係する写真です

 私のもう一つの本業は鍼灸師である。中国を発祥とする鍼灸の基礎には、移り行く自然の変化とわが心のありかを、皮膚感覚で対峙させる中で生まれた独特の自然観や宇宙観がある。古代中国の人は、人間の体を小宇宙とみなし、「気」という肉眼では見えないエネルギーが出入りする磁場を「ツボ」と呼んだ。このツボから、私は患者さんの身体情報をキャッチしている。
 自分の指先に神経を集中させ、指頭の感覚で患者さんの体の歴史への旅に出るのである。ツボは、患者さんの声にならない体と人生のゆがみやひずみを物語ってくれる。押さえてぶわぶわするツボは「虚」といい、エネルギーの注入を求めている。逆にしこっているツボには、邪気ともいえるエネルギーがあり、それは抜かなければいけない。 赤ん坊の肌の、押さえてもすぐにぷよんと返る弾力のある感触がいいとされる。

 さてこの地球にも、人間の体と同様に磁場としてのツボが存在すると思う。こちらは、人間への癒しと明日ヘの活力を発するエネルギーを流入してくれる土地といっていい。多くは辺境の地にあり、悠久でかつ厳しい自然環境下にある。文明の恩恵をあまり受けておらず、人々の生活はシンプルで余分な欲を膨らませなくてもすむ場所だ。環境に応じた人々の知恵の結晶である伝統医療が息づいている場所でもある。呪文を唱えながら治療を施す呪術師のいるボルネオ島の熱帯雨林。薬草と熱した金の針などが治療に使われるヒマラヤ山麓の国・ブータン。祈祷師が崇拝されているアフリカのサバンナ。インディオの薬草知識を伝えるアマゾンなど……。
 そこには、自然の中で心と体のハーモニーを奏でている人たちが住んでいる。
 幸せのありかをしっかり見据えている人たちだ。私は、これら伝統医療が息づく辺境の土地は、地球のエコロジカルな調和状態を知る定点観測地であると思っている。 コンピューターでは管理できない「匂い」や「触感」「味わい」を大切にしながらの辺境への旅は、今という時代を生きることの意味を探す旅でもある。私は、これからも定点観測地への旅を続けたいと思う。

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