深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
他人との距離感


エッセイに関係する写真です

 海外を団体で旅していると、人間同士の距離感について考えさせられる。ホテルなどで全員が食事をとる際の風景に、それは見えるのである。パック旅行では、参加者は出発地の空港で、初めての顔合わせとなる。空港での自己紹介だけでは、なかなかすぐには打ち解けない。でも、初日は自分自身もワクワクしており、風景の変化の方にみんな気をとられている。ホテルに着き、荷をほどいてようやくひとごこちする時間になると、一日の行程を振り返ると同時に、同行者たちのことが気になりはじめる。やがて夜の夕食時間。ホテルのレストランヘと出向いてゆくが、ここでの座る場所選びが興味深い。 一番早く着席した人を横目に見ながら、二番目、三番目と順に着席してゆくが、このとき、人々は微妙な距離感を心の中で測りながら着席しているようだ。「この人とは気があいそうだな」とか「なんか気難しそうな人やな……」とか、一瞬の心の動きが、着席する位置に現れるように思う。私の経験では、初日と同じ着席位置が、旅の後半まで続く場合が多い。誰がそうしなさいと決めたわけでもないのに……。

 私たちは、日常生活の中で多くの他人と接触している。親しい人との距離は短く感じるが、知名度が高かったり、肩書きがあったりする人との距離は遠く感じられる。 一般的には、社会的な地位が距離感を測る大きな判断材料だ。しかし名前だけの自己紹介から始まるパックの旅では、この材料が不足している。だから参加者は、戸惑いながら一瞬の心の動きで、夕食時の座席選びをしているのだろう。旅に出ると、日常の心の距離感が狂いはじめ、なんとなく落ち着かなくなる。でも、その心の落ち着き感のなさが旅の奥深い魅力のひとつだと思う。固定した距離感をとっぱらって素の心に返る醍醐味が、旅には秘められている。人間として素の状態で、相手とのコミュニケーションをはじめることができるのである。旅先では、質と深さの違う心の距離感をもった異国の人とも接触する。そこで心が素の状態になっていれば、真の心の交流もたやすくなるに違いない。旅は、人間同士の距離感を一気に狭めてもくれるのだ。

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