深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
暮らしの裏舞台


エッセイに関係する写真です

 早起きすれば、その地の「生活の舞台裏」が見えることがある。扇風機もないバンコクの安宿。夜、うだるような暑さに見舞われて寝付かれず、そのまま朝を迎えた。気分転換にと、早朝の下町を散策してみた。ドブ川の横にある庶民の市場は、まだ眠りから覚めていなかった。その市場の中で、一人のオジサンが、上半身裸でノコギリを手にしていた。切っていたのは、氷のブロックだった。バンコクなどアジアの都会には、屋台の食べ物屋が集まる市場が多くある。白いブラウス姿の女性や開襟シャツ姿のサラリーマンが、出勤前に総菜と御飯を買っていく。学校帰りの生徒がチョット立ち寄り、清涼飲料水を求めている。夜は、アセチレンランプの下で、酔った男が屋台のオバサンに怒鳴られている。
 そんな、庶民の台所を支えるのが氷屋なのだ。冷蔵庫もない屋台には、氷が欠かせない。早朝、一人でノコギリを引く氷屋の姿から、庶民の生活の裏舞台が垣間見れる。

 パリでも早起きしてみた。花の都は、意外にもゴミが多く人間臭い街だった。
 早朝のセーヌ川河畔は、水鳥の姿くらいしかない。そんな中、一台の清掃車が走っていた。車から降りてきたのは、アフリカからの労働者だ。彼らは黙々と街角のゴミを収集していた。フランスを旅していると、アフリカやアジアからの移民の姿の多さを再認識する。パリの地下鉄では、アフリカからの人、トルコ系の人、中国系、ベトナム人などと乗り合わせる。流暢なフランス語を喋っている人もいれば、自国語のグループで固まっている人たちもいる。早朝、清掃車に乗るアフリカからの人を見ながら、他民族を受け入れるフランスの懐の深さと同時に、その現実の厳しさも痛感した。旅に出ると、旅人は非日常の時間の中に身を浸すことができる。しかし、訪れた土地での人々の暮らしは、日常のリズムで動いている。世界遺産など観光地巡りも確かに旅の魅力ではある。しかし、旅先で、その土地の日常の風景をのぞいて生活背景を想像する楽しみも忘れてはならないと思う。

 昼や夜の風景にも、庶民の生活の匂いは充満している。ということは、旅先では一日中、心のファインダーを開放しておかねばならないということである。

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