深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
男女のレンズの差


エッセイに関係する写真です

 国内外の山歩きの案内をしていると、グループの多数は五十代、六十代の中高年女性が占めていることに気が付く。彼女たちに聞くと、最近になって野山へ出かけるようになったと言う。子供がすでに巣立ちをし、自分の人生を見つめ直す時期がきた頃から、なぜか足が繁華街よりも野山へ向くようになったという。先日も里山を歩いていたら、数人の中高年女性と出会った。彼女たちは、ほんとうに楽しそうに歩いていた。無理なくノンビリと歩き、そして道中ずっと仲間たちと賑やかに喋っていた。道端の小さな花を見ては立ち止まり、景色のいい場所では深呼吸をし、頂上では手作りのお弁当を広げておかずの品評会をしていた。

 ヒマラヤの街道筋を歩くトレッキングの旅でも同じような光景をよく見る。
 女性たちは、通りすがりの現地の子供に話しかけ、民家があれば興味深けに台所まで覗きこむ。街道筋にある道端の露店では、土産品のアクセサリーや民芸品を吟味し、峠の茶屋では一杯のミルクティーで茶のみ談義に花を咲かせている。「おさんどんしなくていいのがいいわね」「そうね、でもチョット家が心配……」「何か飼ってるの? 描?」「ウ〜ン、主人を……」ほんの束の間、夫のことを思い出すが、すぐに茶屋の土産物へと目線は移っていく。その横で、少数派の男性は、地図を片手に山の名前や標高を独り言で呟く。「よし!五百メートル登ったぞ」「あれが、この山だな」「あと、2時間かな」

 男性は、いつも目標に向かって黙々と歩くスタイル。それに対して女性たちの歩き方は、立ち止まりが多い寄り道スタイル。男性の目線は絶えず上を向いた望遠レンズ。女性の目線は上下左右と絶えず動く、音声付きの広角レンズともいえる。少々賑やかな彼女たちを見ていると、旅や人生の味わい方について教えられる。里山への日帰りハイキングでも、初めて出会った人同士がすぐに仲間となり、路傍の野仏に手を合わせ、昔の人たちとも心で会話する。道端の花や野鳥のさえずり、柔らかい木洩れ日の温かさといった自然の恵みに素直に反応する。体の健康のために山歩きを始めた彼女たちは、心の健康も取り戻しているようだ。

深呼吸クラブ・デコレーション