深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
路上で磨く国際感覚


エッセイに関係する写真です

 「エイー ヤー!」という声が、ナイトバザールにこだました。二十年ほど前、学生時代に滞在したマレーシアの首都クアラルンプールでのことだ。
 マレーシアは現在、アジアでも経済的に優等生と呼ばれ、首都には高層ビルが立ち並ぶ。しかし当時はアジア特有の混沌としたエネルギーが、この街にも溢れていた。毎夜、チャイナタウンでは屋台が並び、常設のナイトバザールが開かれていた。その声は屋台の隅の路上から聞こえてきた。声の主は、マナンギと呼ばれるヒマラヤの最奥地に住む交易商人たちである。バザールの薄暗い隅に座り込み、ヒマラヤから持参した安物の宝石を売っているのだ。

 物珍しげな顔をした中国系の住民が、商人の周りを取り巻いている。商人は、身振り手振りで商売上手な中国系住民にアピールする。汚れにまみれた布の中から、さも大事そうに宝石をチョットだけ見せる。ギャラリーの反応を伺いながら、おもむろにニヤッと笑う。そして、石を取り出し、布に包み直した宝石を、掛け声とともに叩きつける。「エイー ヤー!」。少しだけ心配そうな顔をしながら、布を開き、無傷の宝石を自慢げに見せびらかす。これが、彼ら流の商売であった。彼らの住むマナンはヒマラヤでも最も辺鄙な土地。半農半牧とチベットとの交易で生計をたてる貧しい村だ。

 彼らと行動を共にしながら私は、国際感覚について考えていた。数カ国語がよどみなく話せることが、一流の国際感覚なのだろうか。生身を削らない学校の授業や書物から得られる知識で国際感覚が磨かれるのだろうか。日々の生活感覚を磨くことこそ大切なのではないだろうか…。人々の息遣いが素肌で感じられるバザールの道端に座り込み、人々の動きや表情を観察しながら、華僑の末裔たちに立ち向かうヒマラヤからの出稼ぎ商人。彼らの武器は、身振り手振りのパフォーマンスのみだが、これこそ路上の生活感覚から編み出され、国際的にも通じるものだった。私たちも、教科書やマニュアル本といった知識だけに頼らない、アドリブの効いた生活感覚を磨くことが大切なのではないだろうか。

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