深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
シナリオにない出来事


エッセイに関係する写真です

 アメリカでの同時多発テロが発生したとき、同行者とともに北米大陸にいた。
 連日のテレビは、空港閉鎖や各交通機関の混乱を伝えていた。われわれが帰国のためにシアトルの空港に到着したのは、テロ発生から5日後の朝である。前夜、飛行機の欠航を見越してカナダの山中をバスで出発。夜通し走り続けて、寝ぼけまなこだった。ところがそこで見たのは、搭乗手続きをする人たちの長蛇の列だった。三日間も空港で足止めされている人たちもいて、これから先が読めない状況だった。

 遅々として進まない行列の中で、私は今まで旅先で遭遇してきた数々のピンチを思い出していた。学生時代に一年間の予定でインドヘ向かったとき、到着した翌日に滞在費の半分を盗まれた。夜の肉体労働のバイトで稼いだ資金だったので、ショックから立ち直るのに一週間もかかった。平均標高四千メートルのチベット高原では、同行者が高山病に陥り、酸素を吸わせながら約六時間、病院へ車を走らせた。大事には至らなかったが、道中ずっと手に汗をかいていた。シルクロードの砂漠地帯を走っているときには、ルートを誤り延々と夜道をさまよった。ようやく辿り着いたホテルの鏡には、亡霊のような自分が映っていた。ベトナムでは、あまりの酷暑におもわず口にしてしまったアイスクリーム。その日の夜から明け方までに、下痢腹をおさえながら三十数回トイレに駆け込んだ。

 旅先で遭遇してきた数々のピンチは、私に一つの教訓を与えてくれた。「これから必ず状況はよくなる、と思い込め」ということだ。それはわずかに残る心の勇気を自ら鼓舞する作業である。まだ起きていないマイナスの事態を予期すれば落ち込むばかりだ。プラス思考になると、頭もクリアになり、冷静な判断ができたり、思わぬ道が開けたりすることもあった。

 結果から言うと、予定通りシアトル発の飛行機に乗り帰国できたのである。シナリオ通りにいかない出来事は、なにも旅先だけではない。突然の事故や病気、あるいはリストラなど人生のスケジュール変更を余儀なくされる事態は意外にも身の回りに多く発生する。そんなときこそ心に勇気と笑みを忘れず、プラス思考の前向き姿勢が求められる。

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