深呼吸クラブ・ヘッドメニュー
 
ニューギニア高地(緑のシャングリラにダニ族を訪ねる)


エッセイに関係する映像です

 唐突だが、「グーグル・アース」というソフトをご存知だろうか?無料でダウンロードできる、人工衛星からの鮮明な画像の処理能力を有したソフトである。ここ毎日、そのソフトを使い世界中をバーチャル旅行している。ヒマラヤ山中の小さな集落の一軒一軒やタクラマカン砂漠のオアシスの並木の一本まで見事に俯瞰することができる。このような画像は、軍事上の用途のみならず、自然災害のメカニズム解析などで威力を発揮している。急速に進歩し、大衆化してゆく科学技術のスピードは、長年各所を「神秘のベール」で覆ってきた恥かしがり屋の地球を丸裸にしてゆく。少なくとも地理学上における「未知」とか「神秘」という言葉は確実に死語になりつつある。

 1980年代半ば、私が初めて訪れた時、その空港は現代に残された「ロスト・ワールド」への玄関口のようにも感じた。緑の魔境と呼ばれるインドネシア領・ニューギニア, 通称イリアンジャヤの中央高地にあるワメナ空港がその玄関口だった。空港に到着した小型飛行機の窓から見た光景は未だに記憶の箱にしっかりと収められている。簡素な空港の柵に、黒い男たちの人影が遠望できた。目をこらすと、人影の手には長い槍、なかには弓矢を持った男の影も窺えた。さらに目をこすると、その人影は全身裸なのである、イヤ、1ヵ所のみ隠された部分があった。男の局所にのみ「ゴサカ」と呼ばれる、ヒョウタンでできたペニスケースがついていた。

 到着時のプロペラの轟音の中、誇り高く屹立している槍とペニスケース。タラップを降りながら、インディジョーンズの映画の世界に入った気持ちでワクワク・ドキドキしていた。ワメナ空港のあるバリエム渓谷には、ダニ族と呼ばれる人たちが住んでいる。少しずつ文明化の波に影響を受けながらも、当時は石器時代さながらの生活を送っていた。ワメナ郊外の村々をジャングル・トレッキングに出掛けた時のことである。外国人が本当に珍しいのか、集落のほとんどの人が集まってくれた。集落の広場では、焼け石を使ったストーンボイル(石蒸し)のイモ料理が振舞われ、ご馳走であるブタも目の前で丸焼きにされた。イモ料理が出来上がるまでの待ち時間、彼らの静かなおしゃべりの声と料理の煙とがゆるやかに森を漂っていた。

 ある集落では、家々から持ってきた品物で店開きが始まった。並んだものは、いろんな長さと太さのゴサカ(ペニスケース)、弓矢、石斧、動物の骨や牙でつくったアクセサリーの類である。強引な売り込みなど一切なく、地べたに品物を並べ、静かにタバコの煙をくゆらせているだけ。一方子供たちは、片道2時間以上かかる次の集落までの道のりを、ほとんど無言で私達の手をとりながら同道してくれた。その時の彼らの手の温もりは忘れがたいものとなった。この21世紀になっても、ニューギニア高地の奥深い密林の中では、1980年代に私が見た光景とほとんど変わらない生活を送る人たちがいると聞く。

 緑の魔境一二ューギニア、というフレーズを「グーグル・アース」の鮮明な画像ソフトは近い将来完璧に葬り去ってゆくにちがいない。それだけに、身にまとう物が少ない分ピュアな生き方をしている人たちの心を、簡単に地球上から葬り去ってはいけないのではないだろうか。ロスト・ワールド「失われた世界」とは、私たちが置き忘れてきた世界、美しい心をもつ世界のことだったのかもしれない。緑の魔境ニューギニア高地は、同時代に地球上で生を育むすべての人間にとって、「生命力の源・緑のシャングリラ」ではないだろうか。

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